年末調整の書類が会社から配られる11〜12月になると、「また今年もとりあえず提出しよう」となりがちだ。だが国税庁の統計によれば、申告書の記載漏れや提出忘れによって還付を受けられていない会社員は毎年一定数存在する。控除の種類と書き方を正しく把握するだけで、年間で数万円の差が生まれることもある。

本記事では2026年版の年末調整で特に取り逃がしやすい控除7種類を、控除額の実数字・申告書への記入箇所・ミスが起きやすいポイントとともに解説する。

年末調整で申告できる控除・できない控除を整理する

まず大前提を確認しておこう。年末調整は会社が代わりに税計算をしてくれる仕組みだが、すべての控除が年末調整で申告できるわけではない

年末調整で申告できる主な控除:

  • 基礎控除(48万円)
  • 配偶者控除・配偶者特別控除
  • 扶養控除
  • 生命保険料控除
  • 地震保険料控除
  • iDeCo・小規模企業共済等掛金控除
  • 住宅ローン控除(2年目以降)
  • 社会保険料控除

年末調整では申告できず、確定申告が必要な控除:

  • 医療費控除(年間10万円超の医療費)
  • 雑損控除
  • 住宅ローン控除(1年目)
  • ふるさと納税(ワンストップ特例以外)

「年末調整さえ出せば全部終わり」と思い込んで確定申告をしていない場合、医療費控除などで年間数万円が未回収になる。この点を最初に押さえておくと、後の控除選択がスムーズになる。

取り逃がしやすい控除7選|控除額の実数字と記入のポイント

① 生命保険料控除

2012年(平成24年)以降に締結した契約には新制度が適用される。一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の3種類それぞれに控除枠があり、支払保険料が年間8万円超の場合、各枠の控除額は最大4万円(合計最大12万円)になる(所得税ベース)。

ミスが多いのは「旧制度の契約と新制度の契約が混在しているケース」だ。旧制度は旧契約欄、新制度は新契約欄と、申告書の記入欄が分かれている。保険会社から届く「生命保険料控除証明書」の「新・旧」の別を確認して、それぞれの欄に正しく転記しよう。

控除証明書が届いていない場合は保険会社に再発行を依頼できる(電話またはマイページから対応可)。提出漏れで最も多いのが「介護医療保険料」の欄だ。がん保険や医療保険があれば確実に記入したい。

② 住宅ローン控除(2年目以降)

住宅ローン控除の1年目は確定申告が必要だが、2年目以降は年末調整で完結できる。条件を満たしていれば税務署から「住宅借入金等特別控除申告書」が送付されてくるので、記入して会社に提出するだけでよい。

2022年以降に取得した住宅の控除率は年末ローン残高の0.7%(旧制度は1.0%)。新築・認定住宅等では控除期間13年、それ以外は10年となる(国税庁:住宅ローン控除)。

取り逃がしが起きる主なパターンは2つ。「書類が届いていることに気づかず未提出」と「転居・転職後に会社への提出先を更新し忘れる」だ。年末調整の時期に金庫や引き出しを確認してほしい。

③ iDeCo(個人型確定拠出年金)の小規模企業共済等掛金控除

iDeCoの掛金は全額所得控除になる。会社員の拠出限度額は原則として月2.3万円(年27.6万円)だが、企業型DCに加入している場合は上限が変わる点に注意が必要だ。

年間27.6万円をフルに拠出した場合、所得税率20%の人なら年間約5.5万円の節税(所得税+住民税の合算)になる計算だ。

申告書への記入は「給与所得者の保険料控除申告書」の「小規模企業共済等掛金控除」欄。iDeCoの運営管理機関(SBI証券・楽天証券・マネックス証券等)から送られてくる「小規模企業共済等掛金払込証明書」を添付する必要がある。証明書の郵送は例年10月下旬〜11月初旬のため、手元に届いたら申告書と一緒に保管しておこう。

④ 小規模企業共済(副業で個人事業主を兼ねている人向け)

会社員には直接関係ないが、副業で個人事業主を兼ねているケースで見落とされやすい控除だ。小規模企業共済は月1,000円〜70,000円まで掛けられ、掛金の全額が所得控除になる(年間最大84万円)。

iDeCoと異なり60歳以前の解約もできる(ただし元本割れリスクあり)点が特徴。副業収入が安定してきたフリーランス・小規模事業者にとっては有力な節税手段の一つだ。申告書の「小規模企業共済等掛金控除」欄に記入し、中小機構から届く証明書を添付する。

⑤ 扶養控除の更新忘れ

子どもが生まれたとき、親を扶養に加えたとき、逆に子が就職して扶養を外れたとき──これらのライフイベントのたびに扶養控除の申告書を更新する必要がある。

控除額の目安(所得税)は以下のとおりだ:

  • 一般扶養(16歳以上): 38万円
  • 特定扶養(19〜22歳): 63万円
  • 老人扶養(70歳以上): 48〜58万円(同居かどうかで異なる)

特に見落とされるのが「特定扶養」への切り替えだ。子どもが高校を卒業して大学に進学した年から特定扶養(控除額63万円)に切り替わるのに、一般扶養(38万円)のままにしているケースがある。年収500万円(税率20%)の場合、この差は所得税だけで年間約5万円の違いになる。

⑥ 配偶者控除・配偶者特別控除

配偶者の年収が103万円以下なら「配偶者控除」(最大38万円)、103万〜201.6万円の範囲なら「配偶者特別控除」(最大38万円〜段階的に逓減)が適用される。

ただし控除額は納税者本人の合計所得金額によっても変わる(合計所得が900万円超で控除額が段階的に減額、1,000万円超で配偶者控除は適用なし)。配偶者がパートで働いている場合、年収が変動するたびに申告書の数字を修正する必要がある。「去年と同じだから」と前年の申告書をコピーするのは危険だ。

⑦ 生命保険・地震保険の証明書の添付漏れ

控除の種類ではなく「手続き漏れ」として見落とされるのが証明書の添付漏れだ。年末調整は会社に証明書を提出して初めて控除が適用される。提出し忘れたまま締め切りを過ぎた場合、翌年の確定申告で取り戻すことは可能だが、手続きの手間がかかる。

生命保険料控除証明書・地震保険料控除証明書・iDeCo証明書は毎年10〜11月に郵送されてくる。届いたらすぐに年末調整用のクリアファイルに入れておく習慣をつけるだけで、この種の取り逃がしはほぼ防げる。

申告書の書き方:記入ミスが集中する箇所

年末調整で使う書類は主に3種類だ(2026年現在):

  1. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 → 扶養控除・氏名住所など基本情報
  2. 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 → 配偶者控除・基礎控除の計算
  3. 給与所得者の保険料控除申告書 → 生命保険・iDeCo・社会保険料

記入ミスが特に多い箇所は以下のとおりだ:

  • 配偶者控除等申告書:配偶者の「所得」を「収入」のまま記入するミスが多い。給与収入103万円なら所得は48万円(103万円 − 給与所得控除55万円)。
  • 保険料控除申告書(新旧区分):証明書の「新制度」「旧制度」の記載を確認せずに記入すると控除額の計算がズレる。
  • 扶養控除等申告書(所得見積額):子や親の所得見込みを空欄にしたまま提出するケースがある。パートや年金受給の場合も金額を記入しよう。

自分も三児の育児と家計管理を同時に回していた時期に、一度だけ保険料控除申告書の新旧区分を間違えて提出したことがある。翌年に気づいて確定申告で修正したが、本来なら避けられたミスだった。証明書の「新制度」「旧制度」という記載を必ず確認してから書くだけで防げる話だ。

年末調整後に取り戻せる控除は確定申告で回収する

年末調整で申告できなかった控除や記入を間違えた場合は、翌年2月16日〜3月15日の確定申告期間に修正することができる。過去5年分まで遡って申告できる(更正の請求)ため、気づいたときに手続きを行おう。

特に確定申告でしか申告できない医療費控除は、対象範囲が意外と広い。処方薬・入院費・通院交通費(電車・バス)が対象になるほか、市販薬もセルフメディケーション税制(年間1.2万円超が対象)として申告できる場合がある(国税庁:医療費を支払ったとき)。年間10万円(総所得金額等の5%のうち低い方)を超えた医療費がある場合は、確定申告を検討しよう。

確定申告はマイナポータルと連携したe-Taxを使えば、多くの証明書データを自動取得できる。2026年現在、iDeCoや生命保険料の証明書データもマイナポータル連携で電子的に取得できるケースが増えており、手入力の手間が大幅に減っている(マイナポータル)。

FAQ

年末調整の締め切りを過ぎてしまった場合はどうなりますか?

会社の締め切りを過ぎた場合も、翌年の確定申告(2〜3月)で控除を申告し、納め過ぎた税金を還付してもらうことができる。過去5年分まで遡って申告できる(更正の請求)ため、「今年は提出できなかった」と諦める必要はない。

iDeCoの証明書が年末調整に間に合わない場合はどうすればよいですか?

iDeCoの証明書は毎年10月下旬〜11月初旬に届くことが多い。会社の提出期限が早い場合は間に合わないことがある。その場合は翌年の確定申告で「小規模企業共済等掛金控除」として申告することで還付を受けられる。証明書は捨てずに保管しておくこと。

配偶者が育休中の場合、配偶者控除の申告はできますか?

育児休業中に受け取る育休給付金は非課税(雇用保険の給付)のため所得には含まれない。育休前に働いていた期間の給与収入を含めた合計が103万円以下であれば配偶者控除の対象になり得る。実際の給与収入額を確認してから申告しよう。

生命保険料控除証明書を紛失した場合、再発行はできますか?

保険会社に連絡すれば再発行してもらえる。電話またはマイページからの申請が一般的で、郵送で届くまでに1〜2週間程度かかる場合がある。年末調整の締め切りに間に合わなければ、確定申告で申告するとよい。

住宅ローン控除の書類が税務署から送られてこない場合はどうしたらいいですか?

転居後に旧住所に届いたまま未転送になっているケースが多い。国税庁のe-Taxまたは最寄りの税務署に問い合わせれば再発行の手続きができる。2年目以降の申告書は複数年分まとめて交付されているため、紛失した年以降の分をまとめて再発行してもらえる。

参考文献