「奨学金の返済が終わっていないのに、新NISAを始めていいのだろうか」——この疑問を抱えたまま、投資を先送りにしている人は少なくない。

結論から言うと、第一種(無利子)なら基本的に新NISAを優先、第二種(有利子)は金利水準と残額によって判断が変わる。ただし「数字上の正解」だけでなく、年収・残額・年齢という3つの軸で考える必要がある。

本記事では、第一種・第二種それぞれについて繰り上げ返済の実質節約額と、同額をオルカン(eMAXIS Slim全世界株式)に積み立てた場合の20年後資産を試算し、自分の状況に合った判断フローを示す。

第一種奨学金(無利子)は繰り上げ返済より新NISAが基本

第一種奨学金は利息がかからない。つまり、繰り上げ返済しても「浮く利息」は0円だ。

一方、新NISAのつみたて投資枠でオルカンを積み立てた場合、過去実績ベースの年間リターンは5〜7%前後(ただし将来の保証はなく、市場環境によって変動する)。同じ資金を投資に回せば、理論上は繰り上げ返済より資産が増えやすい。

ただし第一種には「所得連動返還型」という制度がある。年収300万円以下なら返還猶予が受けられる仕組みで、収入が不安定な人にとっては「いざとなれば返済を一時停止できる」逃げ道になる。奨学金の借入条件はスカラネット・パーソナルで確認できる。

第一種:月2万円余裕資金を繰り上げ返済 vs NISA積立した場合の試算

選択肢10年後20年後
繰り上げ返済(無利子)残高を240万円圧縮元本を完済(節約利息:0円)
NISA積立(年率5%複利)約310万円約824万円

※月2万円を年率5%で複利運用した概算。税制優遇(NISA)前提。元本保証はなく、実際の運用結果は市場環境により大きく変動する。

数字だけ見れば、第一種は「奨学金を残したままNISAを積み立てる」ほうが資産形成上は有利になりやすい。繰り上げ返済に充てる金額は「確実に返せる生活費の範囲で最低限」と割り切り、余裕資金は投資に回す選択肢が合理的だ。

第二種奨学金(有利子)は金利水準で判断が分かれる

第二種奨学金の金利は最大年3.0%(固定利率選択型)。日本学生支援機構(JASSO)の貸与利率公表ページによると、適用金利は貸与終了年によって異なる。まず自分の借入条件をスカラネット・パーソナルで確認することが先決だ。

三児の母として家計を管理してきた経験から言うと、「自分の借金の金利を正確に把握していない人」は想像以上に多い。繰り上げ返済 vs NISA の比較は、この数字を把握してからでないと意味をなさない。

金利別:繰り上げ返済 vs 新NISA積立の比較早見表

第二種金利繰り上げ返済の優先度理由
0.5%以下低(NISA優先)期待リターンとの差が大きく、投資優位
1.0%前後低〜中(NISA優先が基本)長期積立なら運用益が上回りやすい
2.0%前後中(並行して検討)相場次第で拮抗する。分散が現実的
3.0%(上限)高(繰り上げ返済を検討)確実な年3%の節約効果として評価できる

金利が3%の場合、繰り上げ返済は「確実な年3%のリターン」と同等の効果がある。一方、NISAの期待リターンは平均的には高いが、下落局面では元本を割ることもある。「借金を返す確実性」と「投資の期待値」はトレードオフの関係にある。

ケース別シミュレーション:残額・年収・年齢で変わる最適解

ケースA:残額200万円・金利1.5%・年収350万円・28歳

残額200万円・月返済約1.6万円・残り120ヶ月と仮定した場合、完済までに支払う利息の総額は約16万円前後(金利1.5%・元利均等返済の概算)。繰り上げ返済で浮く節約効果はこの範囲に収まる。

これに対して、月1.5万円を新NISAで20年積み立て(年5%運用)すると、試算上は約618万円(元本360万円)。差額は約258万円となり、節約利息16万円とは大きく差がつく。

ただし年収350万円クラスでは、まず生活防衛資金(月の生活費×3〜6ヶ月分、目安100万円)を先に確保することが最優先だ。緊急資金がない状態で投資を始めると、急な出費でNISA資産を取り崩す事態になりかねない。

ケースB:残額400万円・金利3.0%(上限)・年収500万円・32歳

金利3%・残額400万円の場合、利息総額は返済期間次第だが数十万円規模になる。この水準では繰り上げ返済の「確実な節約」を無視できない。

年収500万円で月の余裕資金が5万円あるなら、「繰り上げ返済3万円+NISA積立2万円」の並行アプローチが現実的だ。32歳からNISAを始めれば、52歳で20年の運用期間を確保できる。無理に一方に集中させず、リスク分散しながら両方進める選択肢が有効だ。

ケースC:残額80万円・金利2.0%・年収280万円・27歳

残額が少なく、年収も低めのケース。利息総額は数万円程度に収まる見込みだ。

この場合、先に繰り上げ返済で完済し、その後NISAに切り替える「完済後NISA集中」も合理的な選択肢だ。「借金を抱えている」という心理的負担が行動を鈍らせるケースは多い。数字が似たり寄ったりなら、自分が行動しやすいほうを選ぶことも立派な判断基準になる。

判断フロー:自分はどちらを優先すべきか

以下のフローで自分の優先順位を確認してほしい。

  1. 生活防衛資金(月支出×3〜6ヶ月)が確保されていないなら、まずそこから。投資も繰り上げ返済もその後で考える
  2. 第一種(無利子)→ 基本はNISA優先。所得連動返還型の対象者は収入安定後にNISA開始でも問題ない
  3. 第二種・金利1%以下 → NISA優先。余裕資金はそのままNISA積立に回す
  4. 第二種・金利2〜3% → 残額と年収で分岐
    • 残額が年収の20%以下(例:年収400万円→残額80万円以下)→ 完済後にNISA集中
    • 残額が年収比30%以上で完済まで遠い → 繰り上げ返済+NISA並行
  5. 30代後半以降はNISAの時間軸が短くなる。繰り上げ返済で早期完済し、完済後にNISAを加速させるプランも現実的

新NISAの仕組みと奨学金返済の税制上の違い

新NISAは2024年1月スタート。つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円、生涯投資枠1,800万円が上限(金融庁・新NISA制度概要)。運用益・配当が非課税になる点が最大のメリットだ。

一方、奨学金の繰り上げ返済には税制メリットがない。利息の支払いは住宅ローン控除のような所得控除対象外のため、純粋な「利息節約」としての効果のみとなる。

繰り上げ返済の申請はスカラネット・パーソナルから可能。繰り上げ返済分は元本に充当されるため、残期間の利息が減る仕組みだ。JASSO公式の繰上返還ページに手順が記載されている。手数料は無料だ。

FAQ

奨学金と住宅ローンが両方ある場合、どの順番で返すべきですか?

基本は金利の高いほうを優先する「アバランチ法(高金利順返済)」が有効だ。住宅ローン(変動0.5〜1%前後)と奨学金第二種(最大3%)を比べると、奨学金のほうが高金利なケースが多い。ただし住宅ローンは住宅ローン控除が使えるため、控除後の実質金利を比較して判断すること。

繰り上げ返済した後でNISAを始めても間に合いますか?

NISAに年齢上限はなく、生涯投資枠1,800万円はいつからでも使える。ただし積立の複利効果は時間が長いほど大きい。30代前半までに開始できるなら、繰り上げ返済後のNISA開始でも20〜25年の運用期間を確保できる。焦らず、まず完済を優先してから切り替えるプランも十分合理的だ。

奨学金の繰り上げ返済に手数料はかかりますか?

JASSOの奨学金は繰り上げ返済手数料が無料。スカラネット・パーソナルから手続き申請できる。ただし振込先・手順に決まりがあるため、必ずJASSOの公式手順ページを確認してから行動すること。

新NISAの積立でオルカンを選ぶ理由は何ですか?

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)は信託報酬が年0.05775%(2026年8月時点・三菱UFJアセットマネジメント公表値)と低く、世界約50カ国の株式に一本で分散投資できる。新NISAつみたて投資枠の定番として多くの証券会社で取り扱われているが、元本保証はない。市場の下落局面では評価額が元本を下回る期間もある点は理解した上で積み立てることが重要だ。

年収が低くてNISAの掛け金が少ししか出せません。それでも始める意味はありますか?

月3,000円からでも積み立てを始めることは可能だ。少額でも「投資の習慣」「相場への慣れ」を身につけるメリットがある。年収が上がったタイミングで増額する前提で、まず小さく始めるのが現実的な入り口だ。新NISAはいつでも引き出せるため、緊急時の流動性も確保しやすい。

参考文献