年間の医療費が10万円を超えると、確定申告で「医療費控除」を申請して所得税の還付を受けられる。自分では申告が難しそうと思い込んで放置している人が多いが、実際はe-Taxを使えば30分ほどで完結する手続きだ。
三児の母である筆者(小林麻衣)は、子どもたちの小児科・矯正歯科・インフルエンザシーズンの診療費が毎年かさむ。家族分をまとめて申請したところ、年収450万円で約1万2,000円の還付を受けた実績がある(2024年分申告)。申告前は「面倒そう」と2年間放置していたことを今でも悔やんでいる。
本記事では、対象費用の判定・還付額の計算・e-Taxでの申告手順を年収別・家族構成別のシミュレーション表付きで解説する。
医療費控除とは?基本の仕組みと対象費用の判定
医療費控除は、1月1日〜12月31日の1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、超過分を所得から差し引いて(控除して)税金を減らせる制度だ(2026年4月現在)。
控除できる医療費の上限は200万円で、自己負担額から保険金などの補填額を引いた金額が計算の基礎になる。生計を同一にする家族分(配偶者・子・同居の親など)の医療費を合算できるのも大きなメリットだ。
控除額の計算式
控除額は以下の式で計算する(国税庁:医療費を支払ったとき(医療費控除)より)。
医療費控除額 = 実際に支払った医療費 − 保険金等で補填された金額 − 10万円(※) (※)総所得金額等が200万円未満の場合は、総所得金額等 × 5%
この控除額に自分の所得税率を掛けた金額が、実際に還付される額(還付税額)の目安だ。還付は所得税分と翌年の住民税軽減分の2段階で受けられる。
医療費控除の対象になる費用・ならない費用
| 対象になる(◎) | 対象にならない(✗) |
|---|---|
| 病院・クリニックの診療費・治療費 | 健康診断の費用(病気が発見されなかった場合) |
| 処方薬の購入費 | 美容目的の歯列矯正 |
| 治療目的の歯列矯正(子どもの発育阻害矯正含む) | 市販の栄養補助食品・サプリメント |
| 入院費用(病院食代含む) | 差額ベッド代(任意選択の場合) |
| 通院のための交通費(公共交通機関) | マイカーでの通院ガソリン代・駐車場代 |
| 介護保険サービスの自己負担分(医療系) | 美容整形の費用 |
| 不妊治療費・人工授精費用 | 任意接種の予防接種費用(インフルエンザ等) |
| 出産費用(入院・分娩費)※出産育児一時金を差し引いた額 | 近視矯正レーシック(視力回復のみ目的の場合) |
判定に迷う場合は国税庁「医療費控除の対象となる医療費」を確認するか、最寄りの税務署に問い合わせること。
年収・家族構成別 還付額シミュレーション
年収と家族構成によって課税所得と所得税率が変わるため、同じ医療費でも還付額に大きな差が出る。以下は保険金による補填がないケースを前提とした概算だ(2026年4月現在の税率を適用)。
独身・子なし共働き夫婦のケース
| 年収 | 所得税率の目安 | 医療費15万円時の控除額 | 所得税の還付額目安 | 住民税の軽減額目安 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 5% | 5万円(150,000−100,000) | 約2,500円 | 約5,000円 |
| 400万円 | 10% | 5万円 | 約5,000円 | 約5,000円 |
| 600万円 | 20% | 5万円 | 約10,000円 | 約5,000円 |
| 800万円 | 23% | 5万円 | 約11,500円 | 約5,000円 |
子あり世帯(子2人・配偶者控除あり)のケース
子どもの通院費・矯正歯科・薬代を合算できるため、医療費の総額が膨らみやすい。申告するなら所得税率が高い側(通常は世帯主)がまとめて申請する方が還付額は大きくなる。
| 世帯主の年収 | 所得税率 | 家族合計医療費 | 控除額 | 所得税還付額目安 | 住民税軽減額目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 10% | 15万円 | 5万円 | 約5,000円 | 約5,000円 |
| 400万円 | 10% | 25万円 | 15万円 | 約15,000円 | 約15,000円 |
| 600万円 | 20% | 20万円 | 10万円 | 約20,000円 | 約10,000円 |
| 600万円 | 20% | 30万円 | 20万円 | 約40,000円 | 約20,000円 |
| 800万円 | 23% | 30万円 | 20万円 | 約46,000円 | 約20,000円 |
※ 所得税率は給与所得控除・基礎控除・社会保険料控除等を加味した課税所得に対する税率。正確な税率は国税庁「所得税の税率」で確認してほしい。シミュレーションはあくまで目安であり、個別の税務判断は税理士等に確認を。
住民税の軽減も見逃さない
所得税の還付は申告の翌月〜2ヶ月後に指定口座へ振り込まれる。さらに翌年(6月〜)の住民税も課税標準が下がるため、合計の節税効果は所得税還付だけではない。控除額 × 10%が住民税軽減の目安だ。上の表でもその分を掲載しているので参考にしてほしい。
申請に必要な書類と事前準備
申告前に以下を揃えておくと当日スムーズに進む。
- 医療費の明細書(2017年分以降は領収書の添付不要。ただし5年間の保管義務あり)
- 源泉徴収票(勤め先が発行。電子発行の場合はデータで可)
- マイナンバーカード(e-Tax利用時の本人認証に使う)
- 医療費通知(お知らせ)(健保組合発行。手元にあれば明細書の一部を補える)
- 保険金等の支払通知書(入院給付金等を受け取った場合)
- 銀行口座番号(還付金の振込先)
筆者(小林麻衣)は子ども3人分の領収書を年間通じてクリアファイルで月別に保管している。クリニックのレシートは小さくて紛失しやすいので、受診のたびにすぐファイルへ入れるのが一番確実な管理法だ。
e-Taxでの確定申告 ステップ別手順
e-Tax(国税電子申告・納税システム)を使えば、税務署に行かずスマートフォンまたはPCで申告できる。申告期間は毎年2月16日〜3月15日だが、医療費控除のような還付申告は1月1日から受付開始する(2027年分は2027年1月1日〜)。さらに過去5年分まで遡れる(国税庁:確定申告の期間より)。
Step 1: 確定申告書等作成コーナーにアクセス
確定申告書等作成コーナー(国税庁)にアクセスし「作成開始」を選ぶ。マイナポータルアプリを使ったスマートフォン認証が最も手軽だ。
Step 2: 「所得税」→「医療費控除」を選択
申告書の種類「所得税(確定申告書B)」を選択し、源泉徴収票をもとに収入・所得情報を入力する。次に「控除」項目から「医療費控除」を選ぶ。
Step 3: 医療費の明細を入力
受診した医療機関ごとに「支払った医療費」「補填された金額」を入力する。1件あたり30秒ほどで、合計10〜20件なら10〜15分で完了する。健保組合の医療費通知データをそのまま取り込める場合はさらに短縮できる(厚生労働省:医療費通知について参照)。
Step 4: 還付額を確認して電子送信
全項目入力後、画面に「還付される税額」が表示される。内容を確認のうえ、マイナンバーカードで電子署名して送信すれば申告完了だ。還付金は申告から3〜4週間で指定口座に振り込まれることが多い。
医療費控除 vs セルフメディケーション税制 どちらを選ぶ?
医療費控除と「セルフメディケーション税制」はいずれか一方しか選べないので注意が必要だ。
セルフメディケーション税制は、健康診断や予防接種を受けた人が特定の市販薬(スイッチOTC医薬品)を年間1万2,000円超購入した場合に使える特例で、控除の上限は8万8,000円だ。対象薬品の一覧は国税庁のページで確認できる。
一般的な選択の目安は以下のとおり。
| 状況 | 有利な制度 |
|---|---|
| 病院の医療費(診療・入院・処方薬)が10万円超 | 通常の医療費控除 |
| 医療費は少ないが市販薬(OTC)を多く購入した | セルフメディケーション税制 |
| 家族全員の医療費合計が10万円を大きく超える | 通常の医療費控除 |
FAQ
家族の医療費をまとめて申請できますか?
はい。生計を同一にする家族(配偶者・子ども・同居の親など)の医療費は合算できます。共働きの場合は、所得税率が高い方(通常は年収が高い方)が申告すると還付額が大きくなります。
領収書を紛失してしまいました。申告できますか?
健保組合から発行される「医療費通知(お知らせ)」があれば代替として利用できます。ただし通知に記載のない費用(市販薬・交通費など)は領収書がないと計上できません。領収書は5年間の保管義務があるため、受診のたびにファイリングする習慣をつけましょう。
会社員でも確定申告が必要ですか?
はい。医療費控除は年末調整では適用できないため、会社員でも別途確定申告が必要です。e-Taxを使えばほとんど自宅から完結するので、税務署に足を運ぶ必要はほぼありません。
申告できる期限・遡及できる年数は?
還付申告は毎年1月1日から申告可能で、過去5年分まで遡れます(例:2026年中に2021年分の申告が可能)。まだ申告していない年度がある場合は、最大5年分を遡ってまとめて申告できます。
医療費控除を申告すると翌年の住民税はどうなりますか?
確定申告の内容は市区町村に通知されるため、住民税の課税標準額も下がります。翌年6月から適用される住民税が軽減される仕組みで、控除額 × 10%が目安の軽減額です。所得税の還付と合わせた合計節税額として考えましょう。
参考文献
- 医療費を支払ったとき(医療費控除) — 国税庁, 2026年4月現在
- 医療費控除の対象となる医療費 — 国税庁, 2026年4月現在
- セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度) — 国税庁, 2026年4月現在
- 確定申告書等作成コーナー — 国税庁 e-Tax
- 所得税の税率 — 国税庁
- 医療費通知について — 厚生労働省