株式投資で損が出た年は、確定申告をすることで払いすぎた税金を取り戻せる場合がある。2026年現在、上場株式等の譲渡損失は他の証券口座の利益と「損益通算」でき、通算後も残った損失は最大3年間「損失繰越控除」として翌年以降に持ち越せる。
ただし、この制度を正しく活用するには、口座の種類(特定口座・一般口座)と証券会社ごとの申告ルールを理解しておく必要がある。本記事では、複数の証券会社に口座を持つ会社員を想定して、損益通算から損失繰越申告まで実例付きで手順を解説する。
特定口座と一般口座の違い——まずここを押さえる
証券口座には大きく分けて「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」の3種類がある。どの口座タイプかによって、確定申告の必要性と方法が変わる。
特定口座(源泉徴収あり)は、証券会社が税金の計算・徴収・納付をすべて代行してくれる。原則として確定申告不要だが、損益通算や繰越控除を活用するには申告が必要になる。
特定口座(源泉徴収なし)は、証券会社が損益を計算した「年間取引報告書」を発行してくれるが、税金の納付は自分で行う必要がある。確定申告は原則必要。
一般口座は、損益の計算も自分で行う。売買記録から取得単価・譲渡価格を自分で計算して申告する。手間がかかるが、特定口座対象外の株式はここに入る。
損益通算や繰越控除を活用したい場合、特定口座(源泉徴収あり)の口座でも必ず確定申告が必要になる点を覚えておこう。
損益通算とは——複数口座の利益と損失を合算する
損益通算とは、同一年内に複数の口座・証券会社で生じた譲渡益と譲渡損を合計して、課税対象の利益を計算し直す仕組みだ。
たとえば、以下のようなケースを考えてみる。
- A証券(特定口座・源泉あり): 利益 +50万円 → 税金 約10.2万円(20.315%)が源泉徴収済
- B証券(特定口座・源泉あり): 損失 −30万円
このまま申告しなければA証券で約10.2万円の税金を取られたままだが、確定申告で損益通算すると、課税対象は 50万−30万 = 20万円となり、税金は約4.1万円(20.315%)になる。差額の約6.1万円が還付される計算だ。
国税庁 タックスアンサーNo.1465 によると、損益通算の対象は「上場株式等の譲渡所得等」同士に限られる。申告分離課税を選択した上場株式等の配当・分配金とも通算できる。なお、未上場株式(一般株式等)との通算は不可。
損失繰越控除とは——3年間の繰越申告ルール
損益通算後もなお損失が残った場合、翌年以降3年間にわたって利益から差し引ける制度が「損失繰越控除」(正式名称: 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除)だ。
重要なのは、繰越控除を使うには損失が発生した年から毎年連続して確定申告をする必要があることだ。1年でも申告を飛ばすと、その時点で繰越権が消失する。
具体的な例を見てみよう。
| 年度 | 損益 | 繰越損失残高 | 課税額 |
|---|---|---|---|
| 2023年 | −100万円(損失) | 100万円繰越 | 0円 |
| 2024年 | +40万円(利益) | 60万円繰越 | 0円(繰越損失で相殺) |
| 2025年 | +30万円(利益) | 30万円繰越 | 0円(繰越損失で相殺) |
| 2026年 | +50万円(利益) | 0円(消化完了) | +20万円分に課税(約4.1万円) |
上記の例では、2023年の100万円の損失を2026年まで3年かけて消化でき、合計70万円分の利益に対する税金(約14.2万円)を節税できる計算になる。繰越申告は単なる義務ではなく、長期投資家にとって強力な節税ツールだ。
複数証券会社の損益通算——確定申告の実手順
複数の証券会社に口座を持つ場合、各社が発行する「特定口座年間取引報告書」を揃えて、確定申告で合算申告する。
Step 1: 年間取引報告書を入手する
1月下旬〜2月上旬にかけて、各証券会社から年間取引報告書が送付(またはWeb公開)される。SBI証券・楽天証券・マネックス証券などの主要ネット証券では、マイページからPDFダウンロードも可能だ。書面で届いたものも含め、口座数分を漏れなく揃えること。
確認すべき主な数値:
- 譲渡所得等の金額: その口座全体の損益(マイナスなら損失)
- 源泉徴収税額: 特定口座(源泉あり)で既に差し引かれた税額
- 配当等の金額・源泉徴収税額: 配当所得の情報(配当と損益を通算したい場合に使用)
Step 2: e-Taxまたは書面で確定申告を行う
国税庁のe-Taxまたは「確定申告書等作成コーナー」を使うのが最も効率的だ。マイナンバーカードがあればオンラインで完結できる。申告期間は原則として翌年2月16日〜3月15日。
申告の流れ(e-Taxの場合):
- 「確定申告書等作成コーナー」→「所得税」→「令和〇年分の申告」を選択
- 「株式等の譲渡所得等の入力」で各証券会社の報告書数値を入力
- 複数社分を順に入力すると、自動で合算・損益通算を計算してくれる
- 「繰越損失の計算」欄で前年以前の繰越損失を入力(ある場合)
- 源泉徴収税額を入力すると、還付額が自動計算される
Step 3: 損失繰越申告書を提出する
損失繰越を翌年以降に持ち越す場合、「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除等に関する明細書(第三表)」を添付する。確定申告書等作成コーナーを使えば、損失額を入力するだけで自動で生成される。
提出期限は翌年の3月15日(通常)。損失が出た年だけでなく、繰越期間中の毎年申告が必要なことを忘れずにカレンダーへ登録しておこう。
NISA口座の損失は損益通算できない——重要な注意点
NISA口座(つみたて投資枠・成長投資枠)での損失は、課税口座の利益と損益通算できない。NISAは利益非課税の代わりに、損失も税務上存在しないものとして扱われるためだ。国税庁 タックスアンサーNo.4400 でも明記されている。
2026年現在の新NISAにおいても、この点は変わらない。NISA口座での含み損が大きく、一方で課税口座(特定口座等)に利益がある場合、NISA側の損失で節税することはできない。
同様に、iDeCo(個人型確定拠出年金)口座も損益通算の対象外だ。iDeCoは専用の税制優遇(掛金の所得控除)が別途あるため、確定申告での損益通算とは切り分けて考える必要がある。
口座が増えると「どれが課税口座でどれがNISAか」を取り違えやすい。年初に口座一覧を整理して、損益通算の対象になる課税口座を明確にしておくと、申告時の混乱を防げる。
FAQ
会社員でも確定申告は必要ですか?特定口座(源泉あり)なら不要では?
通常の給与所得のみなら年末調整で完結しますが、損益通算や繰越控除を行う場合は確定申告が必須です。特定口座(源泉徴収あり)でも、複数口座の損失を合算して還付を受けるには申告が必要です。副収入の確定申告と同じ手続き内で処理できます。
複数の証券会社をまたいで損益通算するときに必要な書類は?
各証券会社発行の「特定口座年間取引報告書」が必要です。一般口座の場合は自分で計算した「株式等の譲渡所得等の計算明細書」を添付します。e-Taxでは数値入力のみで自動計算されるため、各社のPDFを手元に用意しておけば問題ありません。
損失繰越中に1年だけ申告を忘れた場合はどうなりますか?
繰越控除の適用には毎年連続した申告が要件です。1年でも申告を忘れると、その年以降の繰越権が消失します。確定申告期間(翌年2月16日〜3月15日)を毎年スマホのカレンダーに登録しておくことを強くおすすめします。
配当所得も株式の損失と通算できますか?
申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得は、株式譲渡損失と損益通算できます。ただし、総合課税を選択した場合は通算不可です。配当収入が多い方は申告分離課税の選択が有利になる場合があります(ただし配当の課税方式は所得水準によっても変わるため、事前にシミュレーションが必要です)。
確定申告後、還付金はいつ振り込まれますか?
e-Taxで申告した場合、申告後おおむね3〜5週間で指定口座に振り込まれます(申告時期・税務署の混雑状況によって前後します)。書面申告の場合は6〜8週間程度が目安です。申告時に「還付金の受取口座」の情報を正確に入力しておくと安心です。