日銀の追加利上げで変動金利型の住宅ローン金利がじわじわ上がっている。2026年6月時点で、メガバンクの変動金利は年0.6〜1.0%台まで上昇した(日本銀行「貸出約定平均金利」参照)。副業で月3万円の収入がある人にとって、「住宅ローンの繰上げ返済に回すか、新NISAで投資するか」は切実な問題だ。
筆者も副業10年やってきて、ローン返済と投資の二択には何度も頭を抱えた。結論から言うと、金利と期待リターンの差(スプレッド)で判断するのが基本だが、実際には「確定リターン vs 不確定リターン」という性質の違いが大きい。この記事では金利0.5%〜2.0%の4パターンで20年シミュレーションし、どちらが有利かを数字で整理した。
繰上げ返済の効果|金利別で「確定の節約額」を計算する
繰上げ返済の最大のメリットは、利息の削減額が確定していること。投資のように相場に左右されない。
前提条件を以下に固定してシミュレーションする。
- 住宅ローン残高: 3,000万円
- 残りの返済期間: 30年
- 返済方式: 元利均等
- 繰上げ返済額: 月3万円(年36万円)を20年間継続
- 繰上げ方式: 期間短縮型
金利別の利息削減効果は次のとおりだ(住宅金融支援機構のシミュレーションツールで算出)。
| 変動金利(年率) | 繰上げなし総利息 | 月3万円繰上げ後の総利息 | 利息削減額 |
|---|---|---|---|
| 0.5% | 約232万円 | 約139万円 | 約93万円 |
| 1.0% | 約474万円 | 約275万円 | 約199万円 |
| 1.5% | 約728万円 | 約410万円 | 約318万円 |
| 2.0% | 約993万円 | 約543万円 | 約450万円 |
つまり、金利2.0%なら20年で約450万円の利息を「確実に」節約できる。金利が高いほど繰上げ返済の旨みは増す。
新NISA投資の期待リターン|月3万円を20年積み立てた場合
一方、副業収入を新NISAのつみたて投資枠で運用した場合はどうか。元本は同じ月3万円×20年=720万円。非課税で運用できるのが最大の強みだ(金融庁「新しいNISA」参照)。
投資先として代表的な全世界株式(オルカン)を想定し、年利3%・5%・7%の3パターンで試算する。
| 想定年利 | 元本 | 運用益(税引前=税引後) | 20年後の評価額 |
|---|---|---|---|
| 3% | 720万円 | 約264万円 | 約984万円 |
| 5% | 720万円 | 約513万円 | 約1,233万円 |
| 7% | 720万円 | 約832万円 | 約1,552万円 |
新NISAなら運用益がまるまる手元に残る。年利5%で20年運用すれば約513万円のリターン。ただし、これはあくまで「期待値」であり、確定ではない点に注意が必要だ。
参考までに、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の設定来(2018年10月〜2025年12月)の年率リターンは約14%と好調だが、この期間は米国株の強気相場が続いた時期であり、今後も同水準が続く保証はない(三菱UFJアセットマネジメント公式参照)。長期の世界株式の実質リターンは年5〜7%程度が一般的な想定だ。
金利別シミュレーション比較|損益分岐点はどこか
結論から言うと、住宅ローン金利と投資の期待リターンの差(スプレッド)が判断基準になる。
| ローン金利 | 繰上げ返済の確定節約 | 投資(年利5%想定)の期待リターン | 差額 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 0.5% | 約93万円 | 約513万円 | +420万円 | 投資が有利 |
| 1.0% | 約199万円 | 約513万円 | +314万円 | 投資が有利 |
| 1.5% | 約318万円 | 約513万円 | +195万円 | 投資がやや有利 |
| 2.0% | 約450万円 | 約513万円 | +63万円 | ほぼ同等 |
金利0.5〜1.0%なら投資の優位は明確だ。金利1.5%で差は縮まり、2.0%になると投資年利5%想定でほぼトントン。投資の期待リターンを年3%に下げると、金利1.5%以上で繰上げ返済のほうが堅い選択になる。
「確定」と「期待値」は同じ土俵で比べられない
シミュレーション上は投資が有利に見えるケースが多い。しかし、ここで見落としてはいけないのがリスクの非対称性だ。
繰上げ返済の利息削減は100%確定したリターンだ。一方、投資の年利5%はあくまで長期平均の期待値であり、リーマンショック級の暴落が来れば短期で30〜50%のドローダウン(値下がり)もあり得る。
副業10年やってきた実感として、精神的に余裕がない状態で暴落に耐えるのは想像以上にキツい。住宅ローンの返済が重くのしかかっているときに投資が含み損になると、冷静な判断ができなくなる人は多い。
要するに、「期待値の数字だけ」で決めるのは危険だということ。以下の観点も含めて総合判断するのが現実的だ。
- 生活防衛資金: 生活費6ヶ月分以上の現金があるか
- 金利上昇リスク: 変動金利なら今後さらに上がる可能性(日銀は2025年以降段階的に利上げ中)
- 住宅ローン控除: 控除期間中は繰上げ返済の旨みが薄い(控除0.7%分が相殺される)
- メンタル耐性: 含み損-30%を見ても売らずに積立を続けられるか
副業収入の使い分け|おすすめの判断フロー
では、副業で月3万円の手取りがある人は、具体的にどう振り分けるべきか。以下のフローで考えてみよう。
ステップ1: 生活防衛資金を確認
生活費6ヶ月分(例: 月25万円の生活費なら150万円)の現金が貯まっていなければ、繰上げ返済も投資も後回し。まず貯金に回す。
ステップ2: 住宅ローン控除の残り期間を確認
住宅ローン控除(年末残高の0.7%、最長13年)が残っている場合、控除額と金利を比較する。金利0.7%以下なら繰上げ返済で残高を減らすと控除が減って逆効果になり得る(国税庁「住宅借入金等特別控除」参照)。この期間は投資に回すのが合理的だ。
ステップ3: ローン金利で振り分ける
- 金利1.0%以下: 月3万円は全額を新NISAへ。繰上げの利息削減効果が小さいため、投資のリターンが上回る可能性が高い
- 金利1.0〜1.5%: 月1.5万円を新NISA、月1.5万円を繰上げ返済に分散。リスク分散の観点で「半々」が堅い
- 金利1.5%超: 繰上げ返済を優先。確定の利息削減が大きい。余裕があれば月5,000円でもNISAに積み立てて投資の習慣を途切れさせない
ステップ4: 年1回見直す
変動金利は半年ごとに見直される。年1回はローン金利の変動と投資成績を確認し、配分を調整しよう。
FAQ
繰上げ返済の「期間短縮型」と「返済額軽減型」はどちらが得?
利息削減効果が大きいのは期間短縮型です。同じ金額を繰上げた場合、期間短縮型のほうが総利息の削減額で上回ります。ただし毎月の負担を減らしたいなら返済額軽減型も選択肢です。
新NISAの非課税枠は繰上げ返済との比較でどれくらい有利?
通常の課税口座では運用益に約20%の税金がかかります。年利5%・20年で約513万円の運用益が出た場合、課税口座なら約103万円が税金で引かれます。新NISAならこの103万円がまるごと手元に残るため、繰上げ返済との比較で投資側のリターンを大きく押し上げます。
変動金利がさらに上がったらどうすべき?
金利が2.0%を超えてくると、投資の期待リターンとの差が縮まり、繰上げ返済の優位性が高まります。金利上昇局面では「繰上げ返済の配分を増やす」方向で見直すのが基本です。固定金利への借り換え(フラット35等)も検討しましょう。
副業収入が不安定な場合はどうする?
月によって収入が変動する場合は、まず3ヶ月分の副業収入をプールし、四半期ごとにまとめて繰上げ返済か追加投資に回す方法がおすすめです。無理に毎月の積立額を固定すると、収入が少ない月に生活が苦しくなります。
住宅ローン控除と繰上げ返済の同時進行は損?
必ずしも損ではありませんが、控除期間中(最長13年)は年末のローン残高が控除額に直結します。金利0.7%以下で控除期間が残っているなら、繰上げ返済より投資を優先したほうがトータルで有利になるケースが多いです。
参考文献
- 日本銀行「貸出約定平均金利」 — 日本銀行, 毎月更新
- 金融庁「新しいNISA」 — 金融庁, 2024年制度開始
- 住宅金融支援機構「住宅ローンシミュレーション」 — 住宅金融支援機構
- 国税庁「住宅借入金等特別控除」 — 国税庁
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) — 三菱UFJアセットマネジメント
- フラット35公式サイト — 住宅金融支援機構