新NISAのつみたて投資枠で「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」と「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」のどちらを選ぶかは、2024年1月の新NISA開始以来、最も多くの個人投資家が直面する選択肢だ。
金融庁の「NISA口座の利用状況調査」(2025年6月公表)によると、つみたて投資枠で買付額トップ2はこの2本で、合計シェアは約45%を占める。結論から言えば、どちらが「正解」かは投資目的と許容リスクで変わる。この記事では過去20年のデータを使って、リターン・リスク・為替影響・分散効果を数字で比較し、判断基準を整理する。
副業で種銭をつくって投資に回そうとしている読者も多いと思う。編集部でも実際に両方を積み立てて比較しているので、その実感も交えながら解説していく。
オルカンとS&P500の基本スペック比較
まず両ファンドの基本情報を整理する。いずれも三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS Slim」シリーズで、2026年6月時点の情報だ。
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)
- ベンチマーク: MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み・円換算)
- 投資対象: 先進国23カ国+新興国24カ国、約2,700銘柄
- 信託報酬: 年0.05775%(税込)※2024年1月に引き下げ済み
- 純資産総額: 約5兆円超(2026年5月末時点、三菱UFJアセット公式)
- 米国株比率: 約62%(2026年3月末時点の月報ベース)
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)
- ベンチマーク: S&P500インデックス(配当込み・円換算)
- 投資対象: 米国大型株約500銘柄
- 信託報酬: 年0.09372%(税込)※2023年に引き下げ済み
- 純資産総額: 約6兆円超(2026年5月末時点、三菱UFJアセット公式)
信託報酬はオルカンのほうが安い。ただし差は年0.036%程度で、100万円の運用で年間約360円の差にすぎない。コスト面では実質的にほぼ同等と考えてよい。
過去20年のリターン比較 — S&P500が上回るが差は縮小傾向
過去のリターンは「将来を保証するものではない」が、傾向を知る上では有用だ。MSCIとS&P Dow Jones Indicesのデータを円換算ベースで比較する。
年率リターン(円換算、配当込み、2006年6月〜2026年5月)
- MSCI ACWI(オルカン相当): 年率約9.5%
- S&P500: 年率約11.8%
20年間の累積では、S&P500に100万円投資していた場合は約940万円、オルカン相当では約620万円になる計算だ(MSCI公式データ、S&P Global参照)。
ただし、これは「米国株の黄金時代」と呼ばれた期間の結果だ。GAFAM(Google・Apple・Facebook・Amazon・Microsoft)を中心とするテック企業の成長が米国株を牽引した。この期間だけを見て「S&P500一択」と判断するのは早計だ。
期間別で見ると風景が変わる:
- 2000〜2009年(米国の「失われた10年」): S&P500は円建てで年率マイナス5.5%、MSCI ACWI は年率マイナス1.2%
- 2010〜2019年: S&P500が年率約14%で圧勝
- 2020〜2025年: S&P500が年率約13%、MSCI ACWI が年率約10%
つまり、米国株が不調な時期にはオルカンのほうが下落を抑えられた。「どの10年を切り取るか」で結論が変わることは知っておくべきだ。
リスク(価格変動)と最大下落率の比較
リターンだけでなく「どれだけ下がるか」も重要だ。積立中に暴落で含み損を抱えると、不安から売却してしまう人が少なくない。
年率リスク(標準偏差、円換算、過去20年)
- MSCI ACWI: 約17.0%
- S&P500: 約18.5%
S&P500のほうがリスク(値動きの振れ幅)がやや大きい。1カ国に集中しているぶん、分散が効きにくいためだ。
主要な暴落時の最大下落率:
- リーマンショック(2008年): S&P500 円建てで約−51%、MSCI ACWI 約−54%
- コロナショック(2020年3月): S&P500 約−20%、MSCI ACWI 約−21%
- 2022年米利上げ局面: S&P500 約−8%(円建て)、MSCI ACWI 約−6%
暴落時の下落幅はほぼ同水準だが、2022年のように米国発の調整局面ではオルカンのほうが下落が浅い傾向がある。ただし、リーマンショック級の世界的危機ではどちらも大きく下がる点は同じだ。
為替リスク — 両方とも円安・円高の影響を受ける
「オルカンなら為替分散できる」と思われがちだが、実態はやや異なる。
オルカンの通貨構成(2026年3月末時点の月報ベース)を見ると、米ドル建て資産が約63%を占める。残りはユーロ約8%、日本円約5%、英ポンド約4%、その他約20%だ。
つまり、オルカンも6割以上が米ドル建てであり、ドル円の影響を大きく受ける。S&P500は100%米ドル建てなので、円高局面ではS&P500のほうがダメージが大きいが、オルカンでも「為替リスクがない」わけではない。
為替の影響シミュレーション(月3万円を10年間積立、年率リターン7%想定):
- 為替変動なし(1ドル=150円固定): 約519万円
- 円高に10%振れた場合(1ドル=135円): S&P500は約467万円(−10%)、オルカンは約485万円(−6.5%)
- 円安に10%振れた場合(1ドル=165円): S&P500は約571万円(+10%)、オルカンは約553万円(+6.5%)
為替変動の影響はS&P500のほうが大きいが、オルカンでもかなり連動する。「為替ヘッジ目的でオルカンを選ぶ」のは期待しすぎだ。
分散効果 — オルカンの「保険」としての価値
オルカンの最大のメリットは「米国以外の国が伸びたときに自動で恩恵を受けられる」点だ。
現在のオルカンの米国比率は約62%だが、これは時価総額に応じて自動的に変わる。仮に今後インドや東南アジアの株式市場が急成長すれば、オルカンのなかでそれらの比率が自然に上がっていく。S&P500ではこの恩恵は得られない。
「米国一強」が続く保証はない:
- 1990年代: 日本株がバブル崩壊、米国株は堅調
- 2000年代: 米国株が低迷、新興国株(BRICs)が急成長
- 2010〜2020年代: 米国テック株が世界を牽引
過去を見ると、約10年サイクルで「どの地域が強いか」は入れ替わってきた。30年以上の長期積立を前提にするなら、地域分散の「保険」は合理的な選択肢だ。
一方で「結局オルカンも6割が米国株なら、S&P500とほぼ同じでは?」という指摘もある。実際、過去10年のオルカンとS&P500の相関係数は0.95以上と非常に高い。短期的な値動きはほぼ連動する。差が出るのは10年・20年単位の長期だ。
投資目的別の判断基準 — 結局どちらを選ぶべきか
結論から言うと、「どちらも正解」だ。ただし、自分の投資スタンスによって向き不向きがある。
S&P500が向いている人:
- 今後も米国経済・テック企業の成長を信じている
- リターンを最大化したい(過去実績ベース)
- 為替リスクを受け入れられる
- 投資期間が10〜20年程度
オルカンが向いている人:
- 「どの国が伸びるか分からない」から全部持ちたい
- リスクをできるだけ分散したい
- 30年以上の超長期で老後資金を準備したい
- 投資判断に時間をかけたくない(地域配分を自動で最適化してほしい)
「両方買う」という選択肢もある:
新NISAのつみたて投資枠は年間120万円(月10万円)まで。たとえば月5万円をオルカン、月5万円をS&P500に分ける投資家も多い。ただし、オルカンの中身の6割はS&P500と重複しているため、「S&P500を別で持つ=米国株の比率をさらに上げる」ことになる。自分のポートフォリオ全体で米国株比率がどうなるかは意識しておきたい。
筆者は新NISA開始時にオルカン一本で始めた。理由は「30年後にどの国が覇権を握っているか予測できない」からだ。S&P500のほうが過去リターンは上だが、未来の保証にはならない。この判断に正解はないが、「迷ったらオルカン」は汎用性が高い選択だと思っている。
FAQ
新NISAのつみたて投資枠でオルカンとS&P500は両方買えますか?
はい、両方とも金融庁の「つみたて投資枠対象商品」に指定されているため、同時に購入できます。ただし年間の非課税枠は合計120万円(つみたて投資枠)です。成長投資枠(年240万円)でも購入可能で、合計の生涯非課税限度額は1,800万円です(金融庁 新NISA制度概要)。
オルカンとS&P500の信託報酬の差はどれくらい影響しますか?
2026年6月時点で、オルカン(年0.05775%)のほうがS&P500(年0.09372%)より約0.036%安いです。100万円を20年運用した場合のコスト差は累計で約7,000〜8,000円程度。運用リターンの差と比べると誤差の範囲です。
途中でオルカンからS&P500(またはその逆)に切り替えても大丈夫ですか?
新NISAでは「スイッチング(入れ替え)」はできません。既に購入した分を売却すると、翌年以降に非課税枠が復活する仕組みです(金融庁)。今後の積立分から別の商品に変更するのは自由です。既存分は売らずに保有し続け、新規積立だけ変更するのが一般的な方法です。
S&P500に集中投資するのは危険ですか?
「危険」とまでは言えませんが、米国経済・米ドルへの依存度が100%になります。2000〜2009年のようにS&P500が10年間マイナスリターンだった時期もあります。分散投資の原則からは、オルカンのほうがリスク管理上は堅実です。ただし、S&P500も約500社に分散しており、個別株に比べれば十分に分散されています。
毎月いくらから積立できますか?
多くのネット証券(SBI証券・楽天証券・マネックス証券など)で月100円から積立設定が可能です。新NISAのつみたて投資枠の上限は月10万円(年120万円)。まずは月1,000〜3,000円から始めて、慣れてきたら増額するのが堅実です。
参考文献
- 金融庁「新しいNISA」制度概要 — 金融庁, 2024年
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)商品ページ — 三菱UFJアセットマネジメント
- eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)商品ページ — 三菱UFJアセットマネジメント
- MSCI End of Day Data Search — MSCI Inc.
- S&P 500 Index — S&P Dow Jones Indices
- 東京証券取引所 ETF一覧 — 日本取引所グループ