米国株や米国ETFの配当金を受け取ると、米国で10%・日本で20.315%と二重に課税され、手取りは約72%まで目減りする。つまり配当の約28%が税金に消えている計算だ。
だが、確定申告で「外国税額控除」を申請すれば、米国で源泉徴収された10%の一部または全額を取り戻せる。編集部で実際に申告してみたが、年間配当20万円のケースで約2万円が還付された。この記事では外国税額控除の仕組み・確定申告での具体的な手順・取り戻せる金額のシミュレーションを整理した。
米国株の配当金にかかる「二重課税」の仕組み
米国株・米国ETF(VTI、VOO、SPYDなど)から支払われる配当金には、まず米国側で10%の源泉税が差し引かれる。この税率は日米租税条約に基づく軽減税率で、条約がない国では最大30%になるケースもある。
さらに、米国で10%を引かれた残りの金額に対して、日本国内で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が課税される。これがいわゆる「二重課税」だ。
具体例で見てみよう。配当金が100ドル(1ドル=155円換算で15,500円)の場合:
- 米国源泉税: 15,500円 × 10% = 1,550円
- 日本国内での課税対象: 15,500円 − 1,550円 = 13,950円
- 日本の税金: 13,950円 × 20.315% = 2,834円
- 手取り: 15,500円 − 1,550円 − 2,834円 = 11,116円
- 実質税負担率: 約28.3%
2026年6月現在、特定口座(源泉徴収あり)を使っている場合、証券会社が日本側の税金は自動で処理してくれるが、米国で引かれた10%は自動還付されない。取り戻すには自分で確定申告する必要がある。
外国税額控除とは? 控除額の計算方法
外国税額控除は、外国で納めた税金を日本の所得税・住民税から差し引くことで、二重課税を調整する制度だ。国税庁のタックスアンサー No.1240に詳しい解説がある。
結論から言うと、控除できる金額には上限(控除限度額)があり、以下の計算式で決まる。
所得税の控除限度額 = その年の所得税額 ×(国外所得総額 ÷ その年の所得総額)
たとえば、給与所得400万円・米国株配当20万円(国外所得)・所得税額17万円の会社員の場合:
- 控除限度額 = 170,000円 ×(200,000円 ÷ 4,200,000円)= 約8,095円
- 米国で源泉徴収された税額: 200,000円 × 10% = 20,000円
- 実際に控除できる額: 8,095円と20,000円の小さい方 → 8,095円
この例では米国源泉税20,000円のうち約8,095円が還付される。残りの約11,905円は控除しきれない「控除余裕額」として、住民税から最大で所得税控除限度額の30%まで追加控除できる(2026年度時点)。つまり住民税から最大約2,429円を追加で取り戻せる可能性がある。
なお、控除しきれなかった分は翌年以降3年間繰り越せる(繰越控除)。配当が増えてきたら翌年に使い切れることもあるので、申告しておく価値はある。
確定申告での外国税額控除の申請手順【5ステップ】
確定申告は毎年2月16日〜3月15日(2027年分は2027年2月16日〜3月17日予定)に行う。以下、国税庁の確定申告書等作成コーナーを使う前提で手順をまとめた。
ステップ1: 年間取引報告書を入手する
証券会社(SBI証券・楽天証券・マネックス証券など)から発行される「年間取引報告書」「特定口座年間取引報告書」をダウンロードする。ここに配当金額・外国源泉税額・国内源泉税額がすべて記載されている。
確認すべき項目:
- 配当等の額(外貨・円貨)
- 外国所得税の額
- 所得税・住民税の源泉徴収税額
ステップ2: 確定申告書を作成する
国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセスし、「所得税の確定申告書作成」を選択。給与所得・配当所得を順に入力する。
配当所得の課税方式は「総合課税」か「申告分離課税」を選べる。外国税額控除はどちらでも適用可能だが、課税所得695万円以下の場合は総合課税のほうが配当控除も使えて有利になるケースが多い(タックスアンサー No.1250参照)。
ステップ3:「外国税額控除に関する明細書」を記入する
確定申告書等作成コーナーで「税額控除」の項目から「外国税額控除」を選択すると、明細書の入力画面に進む。
入力する主な項目:
- 国名: 「米国」(アメリカ合衆国)
- 所得の種類: 「配当」
- 税種目: 「源泉所得税」
- 納付確定日: 年間取引報告書に記載の支払日
- 納付日: 同上
- 源泉・申告の区分: 「源泉」
- 所得の計算期間: 1月1日〜12月31日
- 相手国での課税標準: 配当金額(外貨建て)
- 左に係る外国所得税額: 外国源泉税の円換算額
ステップ4: 控除限度額を確認する
明細書を入力すると、システムが自動で控除限度額を計算してくれる。前述の計算式で算出された額が「控除限度額」として表示されるので、実際の外国税額との比較を確認する。
ステップ5: 申告書を提出する
e-Tax(マイナンバーカード方式 or ID・パスワード方式)で電子申告するか、印刷して税務署に持参・郵送する。還付申告の場合、申告後おおむね1〜2ヶ月で指定口座に還付金が振り込まれる。
なお、還付申告は確定申告期間前(1月1日以降)でも提出可能だ。早めに出せば還付も早い。
配当金額別シミュレーション|外国税額控除でいくら戻る?
年間の米国株配当金額別に、外国税額控除で取り戻せる目安額をまとめた。前提条件は給与所得400万円・所得税率5%の会社員とする(2026年6月時点の税率で計算)。
| 年間配当(税引前) | 米国源泉税(10%) | 控除限度額(目安) | 還付額(目安) |
|---|---|---|---|
| 5万円 | 5,000円 | 約2,024円 | 約2,024円 |
| 10万円 | 10,000円 | 約4,049円 | 約4,049円 |
| 20万円 | 20,000円 | 約8,095円 | 約8,095円 |
| 50万円 | 50,000円 | 約20,238円 | 約20,238円 |
| 100万円 | 100,000円 | 約40,476円 | 約40,476円 |
配当が年間100万円を超えるような場合、控除限度額だけでは足りなくなることがある。その際は住民税からの追加控除(限度額の30%)や、翌年以降への繰越控除も活用しよう。
読者からよく聞かれるのが「数万円の還付のために確定申告する意味はあるか?」という質問だ。結論、e-Taxなら自宅から30分程度で完了する。年間配当5万円でも約2,000円は戻ってくるし、配当を再投資に回すなら複利効果で10年後の差は無視できない。
外国税額控除の注意点と落とし穴
NISA口座の配当は対象外
新NISA(成長投資枠・つみたて投資枠)で保有する米国株・米国ETFの配当金には、日本国内では非課税だが米国の10%は課税される。そしてこの米国源泉税は外国税額控除の対象にならない。なぜなら、日本で課税されていないので「二重課税」が生じていないからだ。
つまりNISA口座での米国株配当には常に10%の税金がかかる。これを避けたい場合、配当を出さない(or 低配当の)インデックスファンドを選ぶのも一つの戦略だ。
為替差益は別扱い
配当の円換算レートは証券会社の適用レートで自動計算されるが、外貨決済で配当を受け取って別途円転した場合の為替差益は雑所得となり、外国税額控除とは別の扱いになる。
総合課税と申告分離課税の選択
2024年度の税制改正で、上場株式の配当所得について所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことができなくなった(国税庁パンフレット参照)。2025年分(2026年に申告する分)以降は、所得税で総合課税を選べば住民税も総合課税となる。課税所得が高い場合は申告分離課税のほうが有利なこともあるため、自分の税率を確認してから選ぼう。
確定申告すると国民健康保険料に影響する場合がある
国民健康保険に加入している自営業者・フリーランスの場合、配当所得を確定申告すると翌年の保険料算定に含まれる可能性がある。還付額と保険料増加額を比較して判断しよう。会社員(健康保険組合・協会けんぽ)は影響なし。
FAQ
外国税額控除は会社員でも使えますか?
はい、使えます。給与所得者でも確定申告すれば外国税額控除を受けられます。年末調整では対応できないため、自分で確定申告する必要があります。
特定口座(源泉徴収あり)でも確定申告は必要ですか?
外国税額控除を受けるには必要です。特定口座は日本国内の税金は自動処理しますが、米国源泉税の還付は確定申告でしか受けられません。
配当が少額でも外国税額控除を申請するメリットはありますか?
年間配当5万円でも約2,000円の還付が見込めます。e-Taxなら30分程度で完了するので、時給換算でも十分にメリットがあります。
外国税額控除の申告を忘れた場合、過去分を遡って申請できますか?
はい、確定申告の更正の請求は法定申告期限から5年以内に行えます(タックスアンサー No.2026参照)。過去5年分の還付を受けられる可能性があります。
米国ETF(VTI・VOO・SPYDなど)の分配金も対象ですか?
はい、米国ETFの分配金も米国で10%が源泉徴収されるため、外国税額控除の対象です。手続きは個別株の配当金と同じです。
参考文献
- No.1240 居住者に係る外国税額控除 — 国税庁タックスアンサー
- No.1250 配当所得があるとき(配当控除) — 国税庁タックスアンサー
- 確定申告書等作成コーナー — 国税庁
- 令和6年度 所得税の改正のあらまし — 国税庁パンフレット
- 日米租税条約の概要 — 財務省